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Azul図書室 今まで読んだ本の「自己の記録」であり、誰かの目に留まり手にとって読んで頂けたら、さらに嬉しいとても私的な「ブックコーナー」でもあります。時間つぶしにお立ち寄りください。
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「The Bath」と「A Small,good thing」。最初の課題が「The Bath」だった。淡々とした、短いセンテンス。言葉を補足するべきか、原文のリズムを保ち、意訳を避けるか、とにかく、私の翻訳レベルでは手に負えない代物だった。先生はその後、「A Small, good thing」を課題とした。 同じ作家の、同じ小説。ただ、そこには登場人物の感情、終末、がはっきりと書き込まれていた。 「どちらが好きですか?」

と両方の課題のレビューが終わった後に、聞かれたのを 覚えている。

私は、「The Bath」を選んだような記憶がある。他の生徒は 「A Small,good thing」を選んだ人が多かったような覚えもある。舞台となる病院の、冷たい床の温度が感じられるような、前者の文体に、好み、というより、衝撃を感じたのかもしれない。 その後、この小説家のこれらの作品を含んだ翻訳が、次々と出版され、私はすぐれた翻訳を手にし、また違った印象を受けることになる。

小説家は、「レイモンド・カーヴァー」
翻訳者は、「村上春樹」

翻訳学校の課題で上記の作品を取り上げた頃、何故これら 2作品がこれほどまでに違うのか、作家が歳を重ねて、手を入れたくなったのか、ぐらいに考えていた(講師もその理由については述べなかったと思う。)。ただ、このような例が日本文学に、いや、世界の文学にそうは存在しない。 この謎を解く(とっくに解かれてはいたのだけれど) 本がこれ。「月曜日はみんな最悪というけれど」。 そこにはスキャンダルらしき騒動の顛末も書かれていが、村上氏やリチャード・フォード氏の、カーヴァーへの深い敬愛が確認できる。遠いどこかに置き去りにしていた。翻訳スクールに通っていた日々。辞書に首っ引きだった日々。 謎が解けて、カーヴァーの翻訳本を実家の本棚から掘り当てた。この「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」の中で、非常に印象的なカーヴァーの言葉がある。

「多くの人は小説家に波瀾万丈な人生、現実の世界で
苦労をする人生を求める。ちょうどヘミングウェイの人生
のようにね。ぬくぬくと大学の先生をしながら、偉大な
小説が書けるのかって言う。しかしそういうものは、みんな
ただの神話なんだ。」

その神話を作品を作る側に求める人々、その神話を信じ続けている作る側の人々。その氾濫の中にいて、「天賦」を見出すことの難しさ、そして面白さ、を感じる。


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